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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)3732号 判決

原告 中岡容子

被告 寝屋川市

主文

一  被告は、原告に対し、金一四四万二九八三円及び内金一二四万二九八三円に対する昭和五三年一〇月九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二五一万一三八九円及びうち金二二五万一三八九円に対する昭和五三年一〇月九日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は次の事故により傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和五二年六月三日午前八時〇五分頃

(二) 発生の場所 寝屋川市市道神田南北線(以下本件道路という)の寝屋川市東神田町二二〇番地附近

(三) 右場所の状況

本件道路は、ほゞ南から北へ(やゝ西寄り)真直ぐに伸びている道路であるが、右発生の場所附近の道路約五〇メートルの設置状況は、まづ、幅員約五・七五メートルの車道を優先的に取り、その右側(東側)に車道より約一五センチメートル高く、アスフアルト敷の歩道を設けているのであるが、右歩道の設置状況を見ると、南側に於て約二・八〇メートルの幅員があるのに、約五〇メートル北方へ行くと、右歩道は、〇・九〇メートルの幅員しかなくなるという先細りの設置状況である。そして、右歩道の両側には、コンクリート造りの路肩があるが、車道(西側)よりの路肩は、幅〇・一八メートル、東側の路肩は約〇・一四メートルである。

ところが、右歩道は、前記の通り南側に於て、約二・八〇メートルの幅員で、北方に行くに従つて徐々に狭くなり、約一二メートル余り北方の地点では、幅員二・一九メートルしかなくなり、更にその地点で右歩道の路肩が切れ、幅員一・八五メートルと急に狭くなり、その急に狭くなつた切れ目部分の〇・三四メートルの状況を見るに、コンクリートの路肩の幅約〇・一四メートル、それから北方へ伸びる歩道の路肩との間〇・一九メートルは、薄いアスフアルトと土で、その部分に足を乗せると、簡単に路面が崩れる状況にあつた。又歩道を含めての右道路に沿つた東側には、南側に於て、歩道より約一メートル下が畑であつたが、右路肩の切れた部分の北側と、それから北へ伸びる路肩に接して、歩道より約一・〇四メートル下に、路肩の切れた部分に於て、幅約〇・一七メートル、長さ二・三五メートル、北側の端に於て幅〇・三八メートルのコンクリート造りの天端(農業用水路が右道路を横切るための水路用トンネルの天端)があり、その天端の東側約一・三メートル下に用水路(事故当時使われていなかつた為、空缶、ビール瓶、その他のゴミ類が投げ込まれ、水は泥水化していた)があつた。

又右天端の北側には、道路に接して約一・六七メートル下に田があつた。

(四) 事故発生当時の状況

原告は、発生日時当時、寝屋川市立神田小学校四年生に在学中の児童(当時満九年)で、当時多数の右校の通学児童と共に、通学途上であつた。原告は自宅を出て、寝屋川市教育委員会指定の通学路を通つて、これ又指定の通学路である本件道路に、多数の他の通学児童と共に来たのであるが、原告は、前記歩道の東寄りを歩行していたところ、前の児童の影にかくれ、前記路肩の切れ目が見えなかつたので、右路肩の切れ目に足をのせたところ、右部分のアスフアルト及び土が崩れた為、バランスをくずして転落し、前記コンクリート天端に当つた上、その下の用水路に落下したものである。

(五) 傷害の程度

原告は前記事故により、左記治療を要する頭部外傷、頸部捻挫、左下肢挫創、顔面皮膚炎、左眼打撲、左眉毛部挫傷、左眼結膜下出血等の傷害を負つた。右傷害の治療通院及び治療日数(別紙損害明細書参照、(6) の一部を除き、いずれも昭和五二年中)

(1)  渡辺病院

六月三日から同月二一日までの一九日間入院

六月二二日から九月二四日までの九五日間通院(実治療日数一一日)

(2)  関西医大香里病院

六月一七、一八日通院

(3)  古河医院

六月一三日通院

(4)  萩家整形

六月二九日通院

(5)  大阪赤十字病院

六月二九日、八月三日、八月二九日、九月一八日、九月二九日の計五回通院

(6)  ハマダ眼科

七月一一日から昭和五三年二月二八日まで通院(実加療日数九日)

(7)  奈良医科大学

一〇月四日通院

(8)  宮本神経クリニツクス

一〇月四日通院

(9)  青山医院

七月四日乃至八日まで通院(実治療日数四日)

2  被告の責任原因

(一) 本件道路は、被告の所有及び管理する道路であり、一般交通の用に供されていると共に、寝屋川市教育委員会より、寝屋川市立神田小学校の通学路と指定され、同校の通学児童の通学用に供されていたものである。

(二) 本件道路の危険性について

本件道路の本件事故現場の状況については、前記の通りであるが、東側にのみ設置された歩道の東側に本件道路に接しては、前記の通り南側より約一メートル下に畑、その北側に歩道上より二・三四メートル下に用水路、その北側に一・六メートル下に田があり、道路と、その東側とは、一メートル乃至二・三四メートルの段差がある。

そもそも、歩道は前記の通り、南側に於ては、幅員約二・八メートルあつたにも拘らず、約五〇メートル北方に行くと、その幅員が〇・九メートルと極端に狭くなる変形歩道であるばかりでなく、本件事故の発生場所である路肩の切れ目は、歩道が〇・三四メートルも急に狭くなると共に、切れ目の部分に足をのせると、地盤が崩れ落ち、しかも切れ目の北側には、前記の通り約一・〇四メートル下に幅の狭いコンクリートの天端があり、更にその東側は、約一・三メートル下に用水路があるという危険な場所であつた。

然るに、被告は、本件事故当時、本件事故現場を含む本件道路上に転落防止の為の金網等の防壁を設置していなかつたばかりか、路肩の切れ目部分に立札を立てるなどして、路肩の切れ目を標示するものをも置かず、多数の通学児童が列をなして通学するのであるから、前を行く通学児童の影にかくれて、右路肩の切れ目を、後に行く通学児童が見通しの出来なくなること多分に存することを知りながら、又は、十分知りえたにも拘らず、前記の如く何等の防護策を構じず、危険の状態のまゝ放置していたものである。

(三) 被告の帰責根拠

(1)  本件道路は被告が設置・管理する公の営造物であり且つ被告所有の土地の工作物であるが、前記のとおり客観的に危険な状態にあり、その設置、管理及び設置又は保存に瑕疵があつたところ、本件事故は右瑕疵ある状態に因つて惹起されたものであるから被告は国家賠償法二条一項若しくは民法七一七条一項により、

(2)  被告は、本件事故以前にも、通学児の父母等から本件事故現場で何度か児童が転落した事実を踏まえて、何度となく金網等転落防止設備の設置を求められていて、その危険性を十分知り乍ら、何らの措置を構じなかつたものであり、本件事故は被告の右過失にも起因するから、民法七〇九条により、

それぞれ原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

3  原告の損害額(左記(五)(六)(九)を除き各項目とも、その数額の具体的根拠は別紙損害明細書に示すとおりである。)

(一) 治療費 金二一万八一八二円

原告は本件事故により、前記の通りの傷害を負い、右治療の為、前記の通り、各入、通院加療の止むなきに至つたものである。(但し、治療に当つては、原告の父中岡昭義が加入している松下電器健康保険組合の健康保険を使用した。)。

(二) 付添費 金九万六〇〇〇円

原告は当時、小学校四年生であり、入、通院中、原告の世話の為に付添看護人を必要としたのであるが、原告の母、中岡恭子がその付添看護に当つた。右母の付添費として、入院中は、一日三〇〇〇円を下らない金額を、又通院中は一日一五〇〇円を下らない金額を要した。

(三) 交通費 金一万八一一〇円

付添人原告の母中岡恭子は、原告入院中に於ても自宅に主人と四歳の原告の妹がおり、一日一度は自宅に居る家族の世話の為に帰らなければならなかつたのと、通院中は原告と共に、原告に付添つて行かなければならなかつたことによるもの(退院時にハイヤーを頼んだので、その代金五〇〇〇円も含む。)。

(四) 入院諸雑費 金一万四二五〇円

原告は、入院日数一九日間、一日当り、少くとも諸雑費として金七五〇円を下らない支出をした。

(五) 入院、通院、慰藉料 金一〇〇万円

原告は前記傷害の程度で記載した通り、頭及び顔面並びに眼等に傷害を負い、入、通院加療の止むなきに至つたのであるが、右傷害が顔面等重要な身体部位に集中していた為、脳損傷、失明等の虞れある精神的、肉体的苦痛を味わい、右苦痛は大きいものといえ、一〇〇万円を下らない。

(六) 後遺症慰籍料 金一〇〇万円

原告は本件事故により、左眉毛部に裂症を負い本件事故後、二年余経過するも、その傷跡が醜状として残り、今後治る見込みがないのと、現在に至つても、三叉神経障碍により、時々激しい痛みにおそわれており、これまた未だに完治する見込みがたゝないから、これまた一〇〇万円を下らない。

(七) 診断書料 金八〇〇円

本件事故による損害の立証の為、診断書一通の交付を受けた。

(八) 損害の填補 金九万五九五三円

原告は、日本学校安全協会より入、通院加療費として受領した。

(九) 弁護士費用

被告は原告に対し右損害金を任意に支払わない為、原告は本訴提起を余儀なくされ、父母を法定代理人として、弁護士である本件訴訟代理人に訴訟委任をなし、昭和五四年六月一八日、手数料として、金二〇万円を支払うと共に、報酬額につき大阪弁護士会の報酬規定の範囲内で支払う旨の確約をしたところ、本件訴訟の難易度を考慮すると、内、三〇万円は本件事故と相当因果関係があるというべきである。

4  なお、被告は本件事故発生後間もなく、本件事故現場附近の道路の歩道部分を左記の如き改修工事等を為し、本件事故のような転落事故の発生を防止する措置をとつた。   (一) 本件事故現場である歩道の路肩の切れ目より北側の歩道部分の東側を幅にして七〇ないし八〇センチメートル堀り起こし、そこに厚さ一〇数センチメートルの鉄筋コンクリートを敷くとともに右鉄筋コンクリート敷きを従前の歩道の東端より東側に約三二センチメートル張出させ、従前の歩道より約三二センチメートル歩道部分を広げた(添付図面の平面図の赤線で囲まれた部分が右改修工事部分であり、そのうち赤斜線部分が右改修工事により、従前の歩道より広がつた歩道部分である)。

(二) 更に本件事故現場附近の道路の歩道部分の東端に鉄パイプを埋込み高さ約一メートルの鉄パイプ製の柵を設置した。

(三) 本件事故当時右図面の平面図の黒丸〈1〉〈2〉〈3〉部分と右歩道の中央部に設置されてあつたコンクリート製の電柱等を撤去し、現在の右歩道上には、右図面の赤丸〈4〉〈5〉〈6〉部分と右歩道の西端部にコンクリート製の電柱が新設又は移設された。

その為右歩道は本件事故当時と較べて、中央部に障碍物がなくなり非常に通行し易くなつた。

注(1)  右〈1〉にあつたのは直径約二五センチメートルの外灯用のコンクリート製円柱

(2)  右〈2〉にあつたのは直径約五センチメートルの円柱

(3)  右〈3〉にあつたのは直径約三五センチメートルのコンクリート製電柱

(4)  右〈4〉にあるのは直径約三センチメートルの横断歩道の標識の円柱

(5)  右〈5〉にあるのは直径約三五センチメートルのコンクリート製電柱

(6)  右〈6〉にあるのは<5>にあるのと、ほゞ同じ電柱

被告が本件事故発生後間もなく本件事故現場附近の道路の歩道部分を前項の如く改修工事したという事実は、被告自身本件事故当時本件事故発生場所が欠陥道路であり、かつ危険な場所であつたことを自認しているものである。

5  請求

よつて原告は被告に対し、国家賠償法二条一項、民法七一七条一項、七〇九条に基づき損害賠償金二五一万一三八九円及びこれより弁護士費用を除く金二二五万一三八九円に対する昭和五三年一〇月九日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1記載の事実について

(一)発生の日時、(二)発生の場所記載の事実は、大略認める(ちなみに、発生時分は午前七時五五分頃である)。

(三)右場所の状況記載のうち、「その部分に足を乗せると、簡単に路面が崩れる状況にあつた」ことは否認し、その余の道路・歩道の幅員・路肩、接点の状況等の具体的事実は、全て認める。

(四)事故発生当時の状況記載のうち、「寝屋川市教育委員会指定の通学路」であること、「前の児童の影にかくれ、……バランスをくずして転落し」たことは否認し、その余の事実は大略認める。

被告市の教育委員会指定の通学路は存せず、当該道路は市立神田小学校とP・T・Aが協議のうえ決定した通学経路に当る。また、原告は、友達と話しをしていてよそ見をしていたものであり、バランスをくずしたのではなく、踏みはずして転落したものである。

(五) 原告の傷害の程度記載の事実中、原告が受傷した事実は認めるが、詳細は不知。

2  請求原因2(被告の責任原因)記載の事実について

(一) 記載のうち、当該道路が被告市教育委員会指定の通学路であることは否認する。

(二) 本件道路の危険性記載のうち、「切れ目の部分に足をのせると、地盤が崩れ落ち」ることは否認し、本件道路の危険性に関する主張は争う。

(三) 被告の帰責根拠中、「本件事故以前に、本件事故現場に於ては、……設置してくれるよう求めていた」事実は否認し、被告の帰責根拠に関する主張は争う。

3  請求原因3(原告の損害額)記載の事実は、同(八)損害の填補の点を除き、争う。

4  請求原因4記載の本件事故後の改修状況について

被告は、昭和五二年一二月二一日から翌五三年二月一七日までの期間に、本件事故現場附近歩道の拡幅工事を行なつた。

その工事後の状況は、左記の事項を除いて、原告主張のとおりである。

(一) 4(二)の鉄パイプ製の柵が、約一メートルでなく八六センチメートルであること。

(二) 同(三)注(1) のうち、「約二五センチメートルの外灯用のコンクリート製円柱」ではなく、「一七センチメートルの外灯用の鉄製円柱」であること。

なお、〈1〉の円柱(防犯灯)は、完全に撤去したのではなく、やや南方の水路を越えた箇所に移設したものである。

(三) 同(三)注(4) の標識円柱が、約三センチメートルではなく、一五センチメートルであること。

なお、事故後の行政的措置と、本件歩道部分に国家賠償法第二条第一項所定の「瑕疵」があつたかどうかとは、無関係な事柄である。

三  被告の主張及び抗弁

1  瑕疵の不存在

本件事故現場道路の設置又は管理に瑕疵は存しない。本件事故現場附近の道路は、その幅員に差異があり、路肩が切れているという不自然な状況である事実は否めない。

しかし、切れ目部分の路面は、原告が主張するように簡単に崩れる状況ではないうえ、園児、児童等を含めて一般に歩道の通行人が前方を注視して進行する歩道本来の利用形態の下では、切れ目部分の路肩から転落するという本件のような事故は起り得ず、本件道路は歩道として通常有すべき安全性に欠けるところはない。現に、昭和四六年以降、本件事故当時と同様の道路構造や状況の下で、市立神田小学校の児童が通学路として、登下校の際、歩行しているが、本件と同種の事故は発生していなかつたのである。

2  過失相殺

かりに百歩を譲つて、本件道路の設置又は、管理に瑕疵が存し、被告に責任があるとしても、本件事故は、小学校四年児である原告の重大な過失に起因するものであつて、損害賠償額の算定にあたつては、大幅な減額がなされるべきである。

3  本件事故現場を事故後に改修した理由

被告が前4認否のとおりの改修工事をした理由は、現実に発生した本件事故と同種の事故を防止するため、行政的措置として行なつたものであり、「瑕疵」の存在を認めたものではない。

もし、事故後に改修工事等の措置を講じたことが、瑕疵の存することの一理由となるのであれば、法律的な瑕疵の存在を否定する行政当局は、一切、改修工事等事故の再発を防止する措置をなし得ないという、不合理な結果を招来することになる。

4  本件歩道部分に「切れ目」のできた時期および理由

本件道路の本件歩道は、昭和四六年に新設されたものであるが、本件道路は東側の田地より約〇・五メートル~一・五メートル高くなつており、高低差のある部分は石積みで補強されていた。

本件歩道部分は、従来からある右石積みを利用して新設されたものであるが、石積みが切れ目の部分までしかなかつたため、当該部分から南側は、新たにコンクリート擁壁を造つて補強したわけである。

その結果、石積み部分が法面状となり、コンクリート部分が垂直となつて、法面の傾斜部分に「切れ目」が生じたのである。

5  水路用トンネル天端部分の所有者

水路用トンネルは、本件道路の構築物であり、その所有者は被告寝屋川市である。

なお、水路は、国有の法定外公共物であり、その管理者は国の機関としての訴外大阪府知事である。

また、水路用トンネルの天端部分が約三〇センチメートル外部に露出しているのは、水路と道路とが斜めに交差しているためである。

すなわち、もし外部に露出している部分を削り取ると、水路用トンネルの背筋力(耐久力)が減少するため、天端部分として約三〇センチメートル、外部に露出させたものである。

四  被告の主張及び抗弁に対する認否

1  被告の主張及び抗弁1・2・3は争う。

2  同4・5は認める。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実について。

昭和五二年六月三日午前七時五五分ないし八時〇五分頃の間に本件道路の請求原因1(二)記載の場所で、本件事故が発生したこと、及びその場所の本件道路の状態、事故発生の状況と原告の傷害の程度が次に認定する諸点を除いて請求原因1(三)ないし(五)のとおりであることはいずれも当事者間に争いがない。

1  本件現場の状況(請求原因1(三))のうち、本件道路の切れ目幅〇・三四メートルのうちコンクリートの路肩の幅〇・一四メートル(東外側)の西内側でそれから北方へ伸びる歩道の路肩との間の幅〇・一九メートルは、薄いアスフアルトと土で(以上は争いがない。)、「その部分に足を乗せると簡単に路面が崩れる状況であつた。」との点。

この点については、原告法定代理人中岡昭義の尋問の結果及びこれにより同人が昭和五二年六月四日午後二時頃撮影した写真であると認められる検甲第一ないし第五号証(本件現場の写真であることは当事者間に争いがない。)によれば、

(一)  原告の父中岡昭義は、本件事故発生当日の夕方、現場を見に行つたところ、原告が足を踏みはずしたと思われる本件道路の切れ目のアスフアルト部分の北端の方が崩れており、その部分にズツク靴の跡がついていたのを現認したこと

(二)  その翌日撮影された写真にも(とくに検甲第二ないし第五号証)、右転落箇所の下方の農業用水路の天端の上に、右部分から崩れ落ちたとみられる土砂のようなものが堆積していること

等が認められ、これによれば右切れ目のアスフアルト部分の北先端の方はやはり小学校四年生程度の児童が足を乗せ体重をかければ容易に崩れ落ちる程度の強度しかなかつたものと認められる。

2  事故発生状況(請求原因1(四))

(一)  原告は本件道路が「寝屋川市教育委員会が指定した通学路」であると主張し、被告はこれを争い、単に市立神田小学校とP・T・Aが協議の上通学経路に決定したに過ぎないと主張するところ、原告の全立証によるも、本件道路が被告市の教育委員会により通学路に指定されていた事実は認められない。

(二)  事故の態様について、原告は通学の為本件道路の東寄りを歩行していたところ、前の児童の影にかくれ、路肩の切れ目が見えなかつたため、その切れ目のアスフアルト部分に足を乗せた際、そこのアスフアルト及び土が崩れバランスを失して転落したものと主張し、これに対し被告は、原告が友達と話をしてよそ見をしていて足を踏みはずして転落したものと主張する。

前顕甲第九号証及び中岡昭義の尋問の結果並びに成立に争いのない甲第一二号証によれば、原告は大勢の児童が二列に並んで前進する集団登校の右列で本件道路歩道の東路肩寄りを普通に歩行していたところ過つて前記認定の路肩の切れ目部分の崩れやすいアスフアルトの箇所に左右いずれかの足を乗せ体重をかけたため、同部分が崩れ落ち足をすべらせて転落したものと認められ、とくに他の児童とのおしやべりに夢中になるとか、ふざけていたと認めるに足りる証拠はない。

3  原告の受傷の程度(請求原因1(五))

原告が受傷した事実は当事者間に争いがなく、その受傷の程度が原告主張どおりであることは、成立に争いのない甲第一、二号証、第三号証の一ないし一三、第四号証の一ないし三、第五、第六号証の一ないし七、第七号証、第八号証の一、二、原告法定代理人中岡恭子の尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第一一号証及び前記中岡昭義の尋問の結果より認められる。

二  次いで請求原因2につき検討する。

1  本件道路は被告寝屋川市の所有管理する道路(公の営造物)であることは当事者間に争いがない。

2  そこでまず本件道路の設置又は管理に瑕疵があつたとの原告主張につき判断するに、

(一)  本件事故時における本件道路の状態が大略原告主張どおりであること(請求原因1(三))は当事者間に争いがなく、この事実と、成立に争いのない乙第一号証、本件現場の写真であることに争いのない検甲第一ないし七号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件道路は、本件現場付近南北六〇メートルにおいて道幅五・七五メートルの直線のアスフアルト舗装の車道を優先的に設置し、その東側に右車道から一五センチメートル高くアスフアルト舗装の歩道を設置しているが、右歩道の幅は、南方交差点付近では約二・八〇メートルであるのに、北方へ行くに従つて次第に先細りとなり、とくに本件現場の転落箇所において幅三四センチメートルに亘つて突然路肩及び歩道の一部に切れ目ができ、北方交差点付近において幅が〇・九〇メートルしかなくなるという変則的で不自然な状況となつていること、東側路肩の約一メートル下は大体柔らかな土の畑になつているが、本件転落箇所である右路肩の切れ目の下の部分に限つては、農業用水路が東西に敷設され、その水路用トンネルの天端(コンクリート造)が北方へ長さ約二・三五メートル、幅一七センチメートルに亘つて右路肩から約六〇センチメートル下に突出しており、右天端からさらに一・三〇メートル下方に右農業用水路の水面があり、右路肩の切れ目の部分から右水面までの高低差は約二メートルもあつて、仮に人が右切れ目から転落した場合には、右コンクリート造の天端に身体をぶつけ、或いは右天端からさらに下方の水路に転落して負傷する可能性が高く、また転落の仕方によつてはかなりの重傷を負う危険性が否定しえない状態であつたと認められる。

(二)  そうして原告が転落した右歩道の切れ目のうち路肩(幅約一四センチメートル)の内側アスフアルト部分(幅一九センチメートル)は、前記認定のとおり容易に崩れ落ちる状況であつたので、そこを通行する人が普通に歩いていたとしても、整備されている歩道の路肩に三四センチメートルもの幅の切れ目があつて急に道幅が狭くなつているなどの状況はめつたにないことであるから、ちよつとした不注意で右の切れ目に気付くのが遅れ足をかければ、そこが崩れ易くなつていることと相俟つて、過つて道路下へ転落する危険性は高いものと言わざるをえない(ちなみに人は右側通行に慣れ、幅三四センチメートルといえば、児童の身体の横幅一人分である。)。

(三)  また、被告は本件事故後、本件現場付近の道路改修工事を行なつて本件事故の発生した危険箇所等を改善しているが(請求原因4に記載した事実は、被告の認否4に記載したとおり被告が(一)ないし(三)に指摘し訂正した点を除いて当事者間に争いがなく、右争いのある点については被告の主張どおりであると弁論の全趣旨により認めうる。)、これと本件歩道の切れ目ができた時期理由等(被告主張4・5の各事実は当事者間に争いがない。)をみると、被告としては本件道路を設置するにあたつて、本件事故後改修したように(転落防止用の柵の設置の要否は別として、)、当初から不自然な歩道及び路肩の切れ目を造らずに、歩道の道幅を狭めることなくまつすぐに、あるいは先細りとなつたとしてもなだらかな直線で本件歩道の東側路肩を設置することは、きわめて容易であつたと考えられ、かつ証人岡野美代子の証言や前顕甲第九号証(本件事故を報道した新聞記事)にも顕れているように、多くの人々が児童の集団登下校に使用する本件道路について、前認定のとおりの歩道の先細りの状況や切れ目の存在が危険であるとの認識を抱いていたのであるから、被告としても当然、地元からの陳情の有無にかかわらず、前述のような危険性を認識し、直ちに改修工事ができなくとも、とくに本件切れ目部分だけでも転落防止用柵やフエンス等を設けるとか、或いは危険な個所であることを知らせる立札や目印を置くなどして通行人の注意を喚起する処置を構じておくべきであつたと考えられる。

以上の諸点を考えあわせると、本件道路にはその設置及び管理に瑕疵があつたと認められる。

3  前認定(一2(二))の本件事故の発生状況に徴すれば、本件事故の発生と右本件道路の設置及び管理の瑕疵とに相当因果関係のあることは明らかであるから、被告は国家賠償法二条一項により、本件事故により原告が蒙つた損害を賠償すべき責任を有する。

三  財産的損害

原告が請求原因3(一)、(三)及び(七)の損害を蒙つたことは、前記一3掲記の各証拠並びに弁論の全趣旨により認のられ、同(二)の付添費、同(四)の入院雑費についてはその主張のとおりの金額を相当と認めうる。

四  過失相殺・損益相殺

そこで原告は、本件事故により治療費等合計金三四万七三四二円の財産上の損害を蒙つたと認められるところ、前記一2でみたとおり、原告は他の児童とのおしやべりに夢中になるとか、ふざけるなどして足を踏み外したとは認められないものの、本件道路がともかくも毎日の通学路であり、原告が小学四年生であつたことを考えれば、原告自身も前認定のように路面に切れ目のあることを知り又は少しの注意で気付き得て、そこを避けて通るようにすべき注意義務が要求されたと考えられるところ、前認定のように右切れ目のアスフアルトのやわらかい部分に足を乗せてしまつたのは、原告自身にも右注意義務を欠き、漫然と本件道路を歩行していた過失があつたものと認めざるを得ない。

そこで右のような原告の年令、転落態様、本件道路の設置及び保存の瑕疵の程度等を綜合的に斟酌し、右原告の過失を六割と認め、これを前記金額から相殺すると被告の賠償すべき財産的損害額は一三万八九三六円となるが、これから原告が既に損害の填補を受けた金九万五九五三円(請求原因3(八)は当事者間に争いがない。)を差し引くと、右金額は四万二九八三円となる。

五  慰藉料 (同3(五)(六))

前顕各証拠及び前記中岡恭子の尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一三号証並びに弁論の全趣旨により原告の顔面を撮影した写真と認められる検甲第八ないし第一〇号証によれば、原告は、本件事故により頭部外傷、頸部捻挫、顔面挫創、左下肢挫創の傷害を受け、昭和五二年六月三日から同月二一日までの一九日間渡辺病院に入院し、とくに事故直後の三日間は昏睡状態で酸素吸入を要する程の重傷で、退院後も同病院に同年九月二日まで通院し(通院期間九五日、実日数一一日)、右傷害並びに傷跡の整形等のため翌年一〇月四日まで数箇所の病院で通院治療(実日数二四日)を受けており、後遺症として、左眉及び左瞼上部に傷跡が残り、現在でも時折三叉神経痛や頭痛等を起こし、入通院及び前記傷害及び後遺症による苦痛や欠席のため、学業面でも同級生に追いつけず(受傷当時小学校四年生の女児)、家庭教師につくなどの努力をしていること等が認められ、これらの事情並びに前記認定の本件事故における原告じしんの過失割合等を綜合的に考慮すれば、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては、入通院、後遺症等一切を含めて金一二〇万円が相当である。

六  弁護士費用

被告は、原告法定代理人らとの任意の示談交渉に応ぜずためにやむなく原告法定代理人らが弁護士である本件訴訟代理人に訴訟委任をなしたことは当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の難易等に照らし本件事故と相当因果関係にあつて被告の賠償すべき弁護士費用としては、金二〇万円が相当であると認める。

七  結論

以上より原告の本訴請求は金一四四万二九八三円及び内弁護士費用を除く金一二四万二九八三円に対する本件事故の後である昭和五三年一〇月九日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 大和陽一郎 吉田京子)

(別紙)損害明細書〈省略〉

(別紙)図面〈省略〉

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